ゲーム専用のミニWindows PCの性能向上においては、メモリ帯域幅の重要性が高まっている。外付けのGPU(eGPU)の導入による性能強化は新しい流れになるのだろうか。
ゲーミングUMPCの性能向上とボトルネック
ゲームユースに特化したミニWindows PCは、2016年登場に初代GPD Win登場して以来、進化を続けている。最新のRyzen 7840uやRyzen Z1 Extremeでは初代GPD Winと比較して、ベンチマークテストで25倍のスコアを記録し、この分野に参入するメーカーも増えてきて、ついには大企業のASUSがROG ALLYを投入した。
しかし、前世代のRyzen 6800u と比較したRyzen 7840uやRyzen Z1 Extremeのベンチマークテストでの性能向上率が2割程度にとどまるのは2023年登場予定のUMPCを比較するに記載の通りだ。
公称値はRyzen 6800uが3.4TFlops、Ryzen 7840uやRyzen Z1 Extremeが8.6TFlopsであるため、2倍以上の性能向上が期待されるが結果は前述のとおりである。
この性能向上が制限される原因は、AMDが嘘をついている、わけではなく、メモリの帯域幅がボトルネックになっていると考えられている。
現在のUMPC(Ultra Mobile PC)では、メインメモリとグラフィック用のメモリが共有される統合メモリアーキテクチャ(Unified Memory Architecture: UMA)が採用されている。これにより部品点数を減らし、基盤の面積やコストを抑えることができている。しかし、CPUコアとグラフィックスコアという2つの熱源の同居やメモリアクセスの競合によりパフォーマンスが低下する問題点も抱えている。特に、プロセッサのグラフィック性能が向上した結果、メモリアクセスの帯域の問題点が如実に表れてきているのである。
例えば高性能なゲーミングPCでは、CPUとは別に独立したGPU(Discrete Graphics Processing Unit)を備え、グラフィック専用のメモリ(GDDR)を持っている。
メモリの帯域を比較すると、LPDDR5xの帯域幅は約70GB/sである。これは通常の利用方法なら過剰な性能ともいえるぐらいだが、グラフィックのメモリになると話は異なる。dGPUが使用するGDDR6では数百GBの帯域幅があり、1TBクラスのものまで存在する。CPUは独立したLPDDR5xのメインメモリとつながっているため、これと比較するとはるかに劣る状態ということになる。
一方、同じく統合メモリアーキテクチャを採用するゲーム専用機のPS5の演算性能は9.5TFlopsとされている。メモリはGDDR6が採用され、CPUとGPUで同じメモリにアクセスするものの帯域幅は約450GB/sだ。同クラスの演算性能のGPUと比較すると、PS5のFirestrikeのスコアは18,000~19,000程度と予測される。一方、Youtubeなどに出ているRyzen 7840uやRyzen Z1 ExtremeのFirestrikeのスコアはその45%ぐらいだ。つまり、PS5が9.5TFlopsの性能をフルに発揮するために適切なメモリ帯域を持っているとすると、Ryzen 7840uやRyzen Z1 Extremeが8.6TFlopsの性能を出し切るためには4-5倍程度の帯域が必要だといえるだろう。既に性能向上のカギはCPUではなく、メモリに移行していると言えるのだ。GDDRをメインメモリにすることは実装上の問題などで難しいため、UMA方式の性能向上はDDRメモリの進化に期待することになる。しかし、次世代規格のDDR6は2024年に登場予定とされているものの、まだ明確には決まっていないようだ。加えて、DDR6では帯域幅が120GB/s程度になると予想されるが、既にUMAには不足しているのが明らか(帯域が2倍になった場合でも性能向上は3割程度と予想)であり、CPUパッケージにメモリを内蔵するような革新がない限り、UMPC単体でのゲーム性能の向上は難しいと思われるのだ。
メーカーの方向性
メーカーの戦略をみてみると、それがASUSのような大企業が今、参入する理由かもしれないと思う。DELLやNECもUMPCを発表していたが、市場には出てきていない。大企業はブランドを保持するために設計やテストを綿密に行う。ROG ALLYは設計に5年を費やしたとされている。ニッチではあるが堅実なニーズがあるものの、1年で性能が2倍に向上する領域で大企業が毎年スクラッチでモデルを起こし製品化していくのは辛いはずだ。 一方、GPDなどの中小メーカーは、技術の変化が大きなこの領域で挑戦することによって存在感を示してきた。製品が古くなるスピードが緩やかになるにつれて、設計やテストに時間と労力をかけられる大企業に有利な市場になるはずだ(ROG ALLYのURLは rog-ally/rog-ally-2023 なので毎年出すつもりなのかもしれないが)。
また、頭打ちとなりつつある性能に対するASUSとGPDの戦略は同じなのかもしれない。ROG XG MobileとGPD G1はどちらも外付けのGPU(eGPU)であり、UMPCの大幅に性能を強化できる。UMPC本体での性能向上が頭打ちになることを見越してこのようなオプションを用意しているのではないだろうか。
まだ発売されていないので未知の部分もあるが、G1のスタイルは面白い。高速なOCULINKと汎用性の高いUSB4のどちらでも接続できるので、例えば普段はOCULINKのついたGPD WINMAX2023 などとG1をつなげて使い、同居しているパートナーとオンラインゲームをする場合はGPD WIN MAX2 2023 は単体で、手持ちのちょっと古いThunderbolt3がついたPC(たとえばGPD Win3など)にG1をつなげることで、2台のPCを同時に稼働させる、という運用もできるはずだ。(Max2を持っている自分はさすがに2023は買わないが)
今後、外付けGPUが一般的なものになるのか、についても注目していきたい。