ウォーキングシューズレビュー:歩く速さを変える靴は存在するのか

GEL-RIDEWALK (ASICS)、ME-03(MIZNO)、WK400(KEEN)、MOZのスリッポンで同じコースを歩き、負荷や歩行速度の違いをテストした。

ラストワンマイルという言葉は物流分野の社会課題として知られているが、人々の移動においても同様の課題が存在する。観光地やショッピングエリアから離れた場所への移動には手間がかかるのが現状だ。都市部ではシェアサイクルの導入が進み、電動キックスクーターも認可された。しかし、軽量で安全、徒歩よりも楽で速い移動手段を求めると、答えを見つけるのは難しいようである。現在、自転車事故の増加や電動キックスクーターの安全性、歩道上での速度制限などの問題点も浮上している。

もし、軽量・手軽・安全で、さらに徒歩より楽で速い移動手段を実現できれば、都市の混雑緩和や経済効果の拡大、さらには環境負荷の低減に寄与するかもしれない。自分自身、過去にA-BIKEや大人用キックスクーターを試した経験があるものの、これが理想のラストワンマイル対応手段であるとは思えなかった。

こういった背景から「靴」に注目している。市場には「歩行時のエネルギーをXX%カット!」や「筋肉の疲労をXX%抑制!」という売り文句で紹介される靴が多数存在する。自転車は人体動作の中で最もエネルギー効率が良いとされているが、もし靴を工夫することで歩行のエネルギー効率を向上させることができれば、新しい移動手段の可能性が広がるかもしれない。
それでは靴によってどの程度移動速度に違いが出るのか、この疑問を確認するべく、新たなウォーキングシューズを購入し、実際にその効果をテストしてみることにした。

テスト方法:

  • 荒川の河川敷で、往復1.6km程度の同じコースを歩く(約800mのところで折り返し)。
  • 靴ごとに時間を計測し、速度を比較する。
  • 今回は早さだけでなく、「移動を楽にする」こともテーマなので、Fitbitで心拍・数を計測する。心拍数は120/分台になるようになるように意識する。
  • 各界の間には10分程度休憩する。
  • 実際の日常利用を考えて、荷物(GPD Winmax2などを入れ、バッグと合わせて3kg程度)を持ち歩く。
  • より速く移動でき、消費カロリー(Fitbitによって算出)が小さいものを今回のテーマに合致したウォーキング
    シューズとする。

試したウォーキングシューズ

GEL-RIDEWALK (ASICS)
1年近く履いてきた靴である。慣れてしまったものの、最初にお店で履いた時には歩きやすさに感動した記憶がある。すっかり足になじんでいるまさに履き慣れた一足。


軽量スリッポン(MOZ)
コンビニやスーパーなどに行くために購入した家の周り専用のシューズ。軽量を謡うだけあって、今回他を圧倒する軽量さである。値段も2,000円程度とお手頃だった。足へのフィッティングはさすがにほかの3足には及ばない印象。


ME-03(MIZNO)
同社史上最高の高反発ソール素材を使用し、エナジーリターンの高さを謡っている。2023年発売開始のモデル。履きやすく歩きやすく、性能を考えるとコストパフォーマンスは高いと思う。

通気性が良く履き心地が良い

WK400(KEEN)
「まるで転がるような歩き心地」がうたい文句の湾曲した底面を持つウォーキングシューズ。
見たことがない形状で実際に歩いてみると普通の靴とは異なる履き心地で前に前に促される感じが確かにある。
一方、階段の下りなどは一層の慎重さが必要で、正直高齢者にはお勧めできない(それぐらい個性的、ということでもある)。
重さは今回一番重量級ということで、これがどのように影響してくるだろうか。

※すべて個人による計測と感想であり、印象や結果は人によって異なります。


テスターが一人しかいないので、順番が影響するのは間違いないとは思う。
最初に履き慣れたGEL-RIDEWALK (ASICS)でコースを一往復してからMOZ→Keen→MIZNO→GEL-RIDEWALKの順番で歩いた。

ウォーキングコースとした荒川の河川敷
休憩は車の中でデータの入力。GPD Winmax2のコンパクトさが光る。

結果は以下の表だ。Fitbit Chatge5とiPhone12miniのGPSを連携させて距離を計測している。GPSの誤差や多少蛇行したりすることもあるので、距離は厳密には同じにはなっていない。

往路と復路に分けて、所要時間とFitbitが算出した消費カロリーの2軸で比較する。
消費カロリーは主に心拍数と体重・身長などから算出されているようだ。動的に変化する要素は心拍数のみなので、消費カロリーが少ないほうが「疲れにくい」と評価することにする。


歩行速度は回を重ねるごとに順当に落ちるという結果になった。カロリーが右肩上がりなのは心拍数が上がっていくからだろう。
最初のGEL-RIDEWALKから等分に5番目のGEL-RIDEWALKまで速度が落ちていくとしたら、ほぼ直線上に並ぶ。唯一復路のME-03がカロリーの点で他より若干好成績なぐらいだ。

一見大きな違いが出ているように見ええるが、これは違いを厳密にみるために0から始まらないグラフになっているためだ。グラフの縮尺を正しくすると以下のようになる。

見事にほとんど変わらない。

「靴で歩く速さは体感できるほどは変わらない」が今回の自分の総評である。
厳密には異なるのかもしれないが、体感できるような差はないと言ってしまってよいだろう。
一方で、履き心地や長距離歩けるか、といった観点では違いがある。MOZは歩行時の衝撃の伝わり方が他の3足よりもダイレクトで長い距離を歩くのはつらそうに思えた。

シリコンバレーでは以下のようなデバイスも作られているようだ。


このまったり目のローラースケートのようなアイテムは「ムーンウォーカーズ」。最高時速(?)は約10km/hとのこと。ただし、階段などでは安全性が気になるし、ローラースケート並みのかさばり感がありどこでも使えるというわけではないだろう。日本で発売されたら買ってみたいが。(さすがに軽車両扱いにはならない…よね)
この分野はまだまだイノベーションを待っていると思うので新しい発見や商品が投入されたらまた試してみたい。